うまくいかない

オタク、主に男性のそれが、オタクでない女性に対してどこまでカミングアウトすれば、うまくいくか。

今、うまくいく、という言葉で私は、電車男の「サクセスストーリー」のことを言っていない。しかしながら、ここでいう「オタクでない女性」というのは、ある程度、エルメス的な価値(恋愛至上主義一辺倒であるところの当人の価値観、ではなく、オタクながらも男性から見た、女性としての価値。器量といえば少し近づくか)をコミにしたものとしたい。

ここまでややこしくてごめんね。さて、下の行は上の行の続きだよ。

とあるオフィスビルに、一人の受付嬢がいる。夏川純系の容姿は、いわゆる「男好きする」ということになろうか。

その夏川純は、受付嬢なので、受け付ける。何でもかんでもというわけにはいかないが、オフィスに関することならば、まあまず100%、受け付ける。今も、一人のサラリーマンを受け付けている。男の見てくれは、175cm、ひょろ型、メガネ(Zoffで9000円のやつ)、スーツ(マルイで47800円のやつ)。

オタクである。オフィスという、場所が場所なのであれなのだが、いやしかし場所が場所だからこその、脱オタ指向丸晒しの唐変木である。上の、「エルメス的価値」のクダリのニュアンスが、彼の登場で少しは理解頂けたかと思う。

その唐変木、サラリーマンとしては駄目なんだろうなぁとフリーターの私が思ってしまうような所作で受付を手間取らせている。サラリーマンとしては駄目なんだろうなぁ。正直、サラリーマンとしては駄目なんだろうなぁな人、であった。そいつの印象は。その次の瞬間が訪れるまでは。

まわりくどくてごめんね。この次の行は、お待ちかねの「その次の瞬間」だよ。

その次の瞬間、よく知らないのだが、着メロが鳴った。男、出る。切る。

「あ、つながりました。大丈夫でした」

みたいなことを言って受付を終了しようとする男に、夏川純が言ったのである。

「今の着メロ、ルパンですよね☆」

一盛り上がりする2人。目を丸くする私。※余裕があればココ、あとでルパン関連の目の丸いものに例える。捜査中、ひょっこり自分に遭遇した銭形警部、とか。(そいつがルパンだ!)

「いやあ、でも初めてですよ(ルパン指摘してくれたの)」

と男。この辺オタクである。どうしようもなく。

あ、これが一部始終なんだけど、ルパンの位置づけって、そういえばそうだなぁということを、次の行から言っていくよ。

そういえば、そうだったなぁ。全然オタクじゃない子から、全然オタクじゃないからこっちがオタクだってことあえて言うまでもないかなと考えていた子の口から、「理想の男性はルパン」って聞いたの、そういえば、一度や二度じゃない。みんなもそうでしょう?

以前、全員がアニメ好きという状態の飲みの席で、「ガンダムまでは」という話が出ていたが、ルパンって強いなぁと思った、その次の瞬間、少し脚色することが赦されるなら、私の携帯が着メロを鳴らしたのである。ガンダムSEED(去年のやつ)のアイキャッチ(CM明けのやつ)である。

私の体から魂がひゅうっと抜け出し、唐変木の体へ入ってゆく。唐変木の体は軽い。何せ頭が軽い。すぐに魂が入れ替わったのではどうしようもないことに気づき、元の体へ戻る。そして、あの場にサラリーマンとしての私がいて、顔かたちは、まあ、あれでもいいけど、あの状況で、SEEDの着メロだったらと妄想する。

そうそう、そうだよね。最初のボディスナッチ、要らないよね。最初から妄想でいいよね。次の行からは、無駄だったボディスナッチを無かったことにして話を進めていくよ。

「あ、SEEDですね。私も前の方が好き」と、なるだろうか。唐変木に見せたような、アスランに対するルナマリアンスマイルを、夏川純はくれるだろうか。「だってデスティニーってまるでSEEDごっこじゃないですか。」

と。否。と、より否を先行させるべきだったと猛省するほど、否である。なぜならば、そんなことをいう彼女はただのオタク女であるし、万が一そのような性質の持ち主だったとしても、仕事場の同僚の手前、そんなことをカミングアウトするわけがないからである。それに、受付嬢などという社交的な職種に、やはりオタクはいない。能登系のオドっ娘は経理課である。お局様からも目をつけられない。ある日突然、ワンデイアキュビューにしていくまでは。いや、否。ダブル否。否を否するのではなく、否に否を重ねるのであるが、夏川純はやっぱりオタクではない。なぜなら夏川純は、最初に述べたようなエルメス的価値を持った女性像(ココでは便宜上、ヘルペスとする)だからである。

否であるヘルペスが、たとえば、ダブルたとえば、と考えるのをもうやめて、その日(今日のことだ)の私は頭の中で「R.O.D-THE TV-」のメインテーマを、タタタタタッタタタタタッからヘビーローテするのであった。やたら風の強い日だった。