ダブルブル

真ん中がブル。この板では赤ではなく緑

夜、『エースをねらえ』を見ながらぼんやり。

昨年からダーツをやっていて、ハードダーツでもバトルダーツでもない「電子ダーツ漫画」というのは、一個だけならあってもいいんじゃないかと気づく。ヤングチャンピオンとかで連載すればいい。

まずは主人公のキャラ設定から・・・とここで最初のハードルが。

「俺、幼いころからマンガとか読んでないや」。

一気にテンションが下がる。僕は『少年ジャンプ』を一冊も買ったことがない少年だったのだ。しかし、そのかわりアニメがあるじゃないか、お前ならやれるよ、と自分を励ましキャラを練る。部屋でダーツを投げながら。上戸彩がエースを衒っている姿をチラ見しつつ。

ダーツは3投で1セット。真ん中の赤い部分が「ブル」と言われ、刺さると見栄えはするし、高得点。ダブルやトリプルというルールもあるのだが、まず練習ではこの「ブル」を狙う。

「ブル」に最初の2本が吸い込まれる。一呼吸置いて3投目。やや手元が狂った。「あ、やっちゃった」。

と言った瞬間。フライトという、矢の「羽根」の部分にポイント(先っぽ)が触れ、滑り込むようにダーツは「ブル」へと刺さった。

「こ、これだ!」

ダーツ漫画の主人公が僕の頭の中で一気に動き始めた。まさに画竜点睛、キャラクターに命が与えられたのだ。

主人公は母親と弟と3人暮らし、父親は10年前に謎の失踪。貧しいながらも母親の深い愛により、明朗に快活に、そして逞しく、兄弟は育っていた。

ある日兄は町のゲームセンターで酔っぱらったサラリーマンの一行とすれ違う。その内の一人に絡まれ、殴られるが、兄は殴り返さない。

(中略)

「俺は体が小さいから、このダーツじゃ限界がある。しかし自分に合ったダーツを探すのに、どれだけのお金がかかるだろうか」。貯金箱をひっくり返してため息をついている兄に、弟が声をかける。

(中略)

「兄ちゃん、完成だ!」。手先の器用な弟が兄に手渡したのは、竹でできたダーツだった。

(中略)

(しまった・・・!)。客席の半分は感嘆の、もう半分は落胆のため息をついた。確かに2本目もダーツはブルに吸い込まれたが、平均よりかなり大きくしてあるフライトが邪魔して、もうブルにはほとんどスペースがない。(これは、あれに賭けてみるしかない!)。兄は目を閉じて集中する。(よし!)、山なりの柔らかな投てきに、誰もがミスダーツだと思った。

兄の目にはスローモーションの映像のように、自分の投げたダーツがゆっくりとブルへと向かっていく姿が見えていた。そして、確信した。「勝った」。

客席から一斉に歓声が上がる。山なりに投げられたダーツはほぼ水平にフライトに着地、ダーツの「しなり」を受けて勢いよく75度の角度で上昇、ブルの15cm上にある「20トリプル」(ダーツにおける最高得点)に突き刺さったのだ。まさに、竹でできた兄の、いや、「兄弟の」ダーツだからこそ為しえた、奇跡のショットだった。

「やったね兄ちゃん! やっぱ兄ちゃんは天才だよ!!」、「いや、お前のダーツのおかげさ」、「えへへ」。

優勝賞金を手に家路につく二人。夕焼けに照らされ、二つ並んだ影がアスファルトに長く濃く映っている。「お母さんのカレー」の匂いを嗅ぎつけた弟がにわかに駆け出す。「よし、競争だ! 勝ったほうがお代わり2杯ね」、「おい、ずるいぞ、待て!」。

しかし家で二人を待ち受けていたのは、あまりにも過酷な、運命のいたずらだった・・・。

(つづく)

とか。