ベストナイン
ビデオでM−1グランプリを一気に見る。漫才を格闘技として扱っているこの大会も今年で三回目。格闘技といってもプロレスというよりはその名の通りK−1寄りで、スポーツ性=「筋書きのないドラマ」性、が前面に押し出されてきた。
しかし今回のM―1は、例年になく「ドラマティック」だった。
一回戦一組目は千鳥。テロリズムにしては弱々しく、優勝を狙うには変化球すぎるという逃げの姿勢が目立ち、手元のメモ用紙に「70点」と書く。佇まいは好感が持てるが、岡山弁漫才という方法に依拠するあまり、「漫才」の枠の中を犬かきするしかないという絶望感は依然残る。吉本の地方分権は、吉本グローバリズムを揺るがすものではなく、むしろ逆だ。
続いて麒麟。一昨年、漫才を正面からひっくり返そうとする勢いでM―1に現れた麒麟だが、こじんまりした印象。75点。
スピードワゴン。気色が悪く、68点。
そして笑い飯。昨年驚愕させられたコンビ。本当に面白い人がギャグマンガ家にもカタギにもならずに、ちゃんとお笑いになるというのが希有なことなのだと思い知らされる。ネタ構成も気持ち良く、90点。
二丁拳銃。はっきり言って二丁拳はどうでもよかった。十年目、ラストチャンスという「ドラマ性」が前面に押し出され、「筋書きのないドラマ」性が薄れる。早送りすら考えたが、思い直してネタを見る。85点。面白かった。結局決戦には残れなかったが、彼らが鼻の差で敗者復活のアンタッチャブルにかわされた敗因は、絶対に長年の無駄な歌手活動だ。
アメリカザリガニ。平井さんは好きなタイプのボケなので個人的には応援している。リラックスしすぎたのか、ある種の諦めすら感じられた。74点。
フットボールアワー。78点。空腹時に見たのだが、満腹時だったらもう少し下がっていただろう。売れるためには何が必要か。フットボールアワーの「実力」は、何かを破壊するだけのものではない。
りあるキッズ。18歳。ツッコミの子の反射神経のよさに感心。それも大会の「公平さ」ゆえであって、例えば『内P』で力を発揮できるかというと困難だろう。それだけM―1は彼らにとって有利な舞台だ。77点。
最後は敗者復活のカイジャリトカブル、否、アンタッチャブル。彼らは逆に、さんま御殿や内Pで活躍すればいいんじゃないだろうか。「ここお前さん達の来るとこじゃないヨ」とまでは言わないが。84点。
そして決戦。一組目は笑い飯。始まっただけで、思い出し笑い。脱脂綿のクダリは爆弾だった。息が止まるほど笑う。優勝決定!
フットボールアワー。SMタクシーのネタ。オートバックスM―1グランプリの決戦にタクシーネタを持ってきたか。
アンタッチャブル。そこそこ面白かったが、笑い飯が獲ってしまうことへの複雑な期待が高まる。
※
今回のM―1は、例年になくドラマティックだった。ドラマには「筋書き」がある。別に八百長説を訴えているのではない。漫才大河ドラマを、まだ打ち切りにしてはならなかったというだけ。審査員個人の、利害の問題だ。決して選択ミスではない。僕はむしろ、フットボールアワーの優勝で安心したクチだったりする。
そういえば昨日、渋谷でフットジャグをやっていたのだが(昨日の日記参照)、日が暮れる直前、M―1の話題になった。
「笑い飯は優勝はできないよ。なんだかんだ言ってあっち側の人らが許さないって」。言いながら右足に力が入り、球はガードレールを飛び越え、車道へ落ちた。