ミスリード

今年の文藝賞受賞作の一、『野ブタ。をプロデュース』を読むためブンゲイ購入。作者・白岩玄は1983年生まれの京都市出身。でこのタイトル。絶対ハガキ職人だと思ったが違うかもしれない。ハガキ職人はイギリスに留学などしない。

感想。いや、ショヒョーをひとつ。打つ前に、はっきりさせておかなければならないが、この、「笑える小説」と売り文句を打たれるであろう作品の作者は、賞を獲りたくて小説を書いている僕にとってのライバルだ。正確にはライバル、だった。イチ抜けたわけだから。

だから何を言っても負け犬の遠吠えになるのだが、しかし事笑いに関して曲がりなりにもというには曲がりすぎてはいるにしろ僕はプロである。その点では譲れないプライドがある。

しかし笑える小説なんか書いて文学賞とって、お笑い作家の足場を作って、それからお笑いの足場を利用して笑えない小説を書きたいと僕は、その実モクロンでいたりするわけで、やはりプライドはぺらぺらの「ペライド」なわけで、やっぱり何を言っても負け犬の遠吠えなのだ。ぎゃふん!

主人公の、キマってる時の笑わせは、プロになってしまうような我々と比べると、小学生レベルで、絶対にそれ以上ではない。作者も二十歳過ぎているなら、ウソでもそう認識してないといけない思う。ふと思ったのが、「松風」を受けずに育つと、あるいはこういう「面白いヤツ」ができ上がっていて、それが、今のスタンダードなんじゃないかと。

まあそれは罪悪だからそうなんだと見過ごせるわけではないし、「おぎやはぎ」が古今東西で一番面白いと言っていた同級生が、いつの間にか「やっぱ俺らダウンタウン、マツモトヒトシの影響ってのは…」とかいつの間にか自明のこととしていたという極端なケースも見ているので、単なる作者のスペックの問題だとして、

選評の斉藤美奈子による評「『セカチュー』読んで泣いてる場合じゃない。『野ブタ。』読んで笑いなさい」というのは、あれ、斉藤さん、箸が転げても笑える少女じゃないんだから、と思った。スカし、テンドン、ノリツッコミ、いわば笑いのコードをかき鳴らすだけの、お笑いギターオナニー。「ウケる技術」の域を出ておらず、出ようとして失敗しているのかすら微妙な本作の笑いは、「ウケる小説」としてセルゲイ・ブブカ的に「新しさ」を更新したにすぎない。綾小路きみまろでいいなら、いいが。

次に「キャラ」。結局、作者はキャラを肯定した。「キャラ」は、今回は委員じゃない保坂和志が言いそうな言葉を使うなら「公」の側にあるものだ。「個」として、戦わなければならない。主人公は、戦って負けたわけではない。キャラはウィルスのように人間に取り憑くもので、ああやって着脱するというのは、作中登場人物が物理的に空を飛んでいるのと同じくらい不自然だ。

村上龍『2days4glrls』の中にも大きなファクターとして登場する「笑い」「キャラ」「プロデュース」と比しては酷なのかもしれないが僕はたまたま前後して読んだので比さざるをえないのだが、作者・白岩玄の「テーマ」(と、受賞者インタビューで口にしていたのも、揚げ足取りではなく、小説が「キャラ」や「ウケる技術」と並列の「テーマトーク」の延長線上に置かれていることを示していると言えよう)は、使い物にならない。

250枚くらいある中で、100字くらいしか、読むに値しない作品である。

以上、ほぼ全ての文に「抜け」のための自虐ネタを用意しているのだが、結局はスキを埋めてガードを固めることになるので省略。と、書くこともスキを埋めて・・・と、バベルの塔は延々と造られてゆく。