センスボーイ

アニメーターの「アニ君」と最後にメールしたのは、1週間前だった。僕はNのことにかまけていて、もう一人の主役とのやりとりを日記に書き忘れていた。アニ君の人となりを簡単に説明しておくと、「虚栄」で等身大の身体を形成しており、その身体が、他者からの情報の搾取によって成長する、という、モンスターのような、好青年である。僕はもう馴れれしまったので公然とこういう言い回しができるが、初対面の人にとっては驚異となるだろう。詳しいことは、いずれアップする予定の過去の日記をご参照いただきたい。

1週間前、「漫才バカ一代」北沢タウンホールでのライブにアニ君は姿を見せているはずだった。共通の知り合いである(という形にアニ君が持ってくることに成功した)芸人さんから、招待のメールが行っているはずだったからだ。

終演後、どうやら来ていないことを確認した僕は、「ライブ来てるの?」とメール。どういう理由かは知らないが、どうやら「五感を閉じる」という彼の特殊能力が発揮されているようだ。これは、と僕は傍らにいた共通の友人に宣言する「え、今日だったの?」とかいう返事が返ってくるよ、きっと、と。ほどなくメールが。

程なくアニ君からメールが。

「ライブっていつだっけ?」

ほとんど正解である。が、正確には彼の方が一枚ウワテ、だ。少し劣勢に立たされた形になった僕は、次のメールの後「今度は電話がかかってくるよ」と宣言して見事正解しなければならない。そこでこう打った。

「今からでも来い! 失礼だぞ!!」

失礼、とは、今書いているような、彼のとっての「攻撃」を直接アニ君に言ってみたときに帰ってくる、彼の常套句でもある。

電話がかかってくることはなく、「今から仕事なんだ。っていうか失礼ではないだろ(笑)」という天然メールが。例の特殊能力によるところが大きいのだろうが、文字通りの「矛盾」を真実として処理できるのはうらやましい。そうツッコミを入れるべきなのはいつもアニ君が言っている「失礼」に対する僕であって、このケースでアニ君は、メールをもらっておきながら「「「忘れている」」」という、失礼を働いているのである。ついでにカッコの多さに比例して、失礼さ加算される。キャラを戻して僕は諭す。アニ君に対してマトモに接しているということは、こっちのキャラのほうが嘘なのだが。

「だって招待のメールもらったでしょ?」云々と。メールもらったことを僕が知っているとは思っていなかったようで、出会い系サイトの常連らしくメール返信の早さは女子高生並のアニ君が、少し文面を考えているのだろう、時間が空いた。

そしてそのまま1週間が過ぎていた。朝起きると、アニ君からのメール。「忙しくて返信すらできなかったんだよ」。1週間空いた時間を無視して「普通に返信」できるところはさすが未来人(将来人間は、アニ君のように自由に五感の互換性をコントロールできるようになるのだ、きっと)だなと思うが、っていうか・・・僕は急速に蓄積されたエネルギーを左手の親指に込め、メールを打つ。

「1週間考えたウソがそれかよ!!!」

送信ボタンを押して、携帯電話が止まっていることに気づく。古文で表現するなら、「はしたなきこと、清少納言に見せられじ」だ。