価値

一ヶ月振りくらいで年上の友人から「生きてた?」という内容のメールが届いた。この一ヶ月、生きていたか死んでいたかと言えば、ほぼ休まずバイトしてたわけだから、生きるために死んでいましたと答えるのが妥当だろうと思う。

と、上のようなことを本気で、何の疑いもなく、いわゆる天然で「思う」ことができないのは、年齢なのだろうか。例えば15歳の女子中学生が天然で上のようなことを、バイトと授業・部活を差し替えて思い、小説を書き始めたら、それは、価値のあるものになるだろうと思う。

自然主義」だったら、上のような女子中学生の天然が描かれていれば、書いているのが私のような26歳の男性でもよいわけだが、そんなのきもいよね。女子中学生が、女子中学生なりに、たとえば女子中学生を男子小学生に差し替えて上のようなことを思い、小説にしたためたら、それは「天然主義文学」であり、ブンガクのモードということになる。

要は、文学作品の価値は作者が女子中学生であるかどうかということなのである。

もうおわかりだろうが、上のようなことを、女子中学生が、自虐と大人への非難の相まった気持ちを吐露する意味で小説にしたためれば、そこにも新たな価値が発生する。今は若干新しすぎるが、それは「天然自然主義文学」として、今後の文学界をリードするスタイルになるはずだ。

そんな天然自然主義文学作品として、女子中学生を、演じている、と自覚している「女子中学生作家」が、例えば26歳のフリーターなりニートなりを、天然という武器を用いて自然主義的に書く。これは価値が発生する。一方、26歳のニートを演じていると自覚している、ニート作家が、そんな女子中学生のことを天然で書いても、その天然は武器にはならないので価値は持たない。さらに、自然主義的に描いた女子中学生というのも、価値(ここで「価値」とは、市場を限定せず発生が想定される、市場価値のこと)はない。

女子中学生女子中学生と連呼しているのは、「女子高生」にナチュラルな価値がなくなったからという認識の上に立ってのものだ。だから以上は、女子高生の天然によるぼやきであっても不思議ではない、あれこれディテールを置き換えた上で。

18時の電車でバイトに行かなきゃいけないのにもう16時、早く起きてから最初の飯を食わなきゃいけないのに『ガチャガチャポン!』で夏帆ちゃんを見ながらこんなことを書いている。

パックンマックンが「キャンユーセレブレイト」は「あなたは祝うことが出来ますか?」だから、ウッジューにするか、もうイッツセレブレイにするかが正しい、と言っていたけど、ちょっとひどくない? コムロ=文盲という前提、気持ちは分かるけど。耳に残る歌詞と、当時の安室奈美恵の歌い上げ顔を思い出す限り、あれは恋愛≠結婚という「現実」に破れた男性に対し、結婚してゆく女性が言っているのである。……というのはもう16時も半を過ぎ、松嶋菜々子のドラマが流れているから思わされているのかもしれない。30分が一気に飛んでしまったのは、合間に飯を食ったからだ。和風オムライスを作ったのだが、塩の量を間違えて、今とても水が飲みたい。

我々ニートはどうやって価値を創出すればよいのか。先日、綿矢りさの『インストール』を文庫で再読していて、あまりの「文学的価値」の高さに、上のような思考に逃げ込んだ。

ニートは同人的価値を創出すればよい。これは一理あるだろう。ニートは社会的に何者でもないが、作者=消費者でループするその価値観の中で消費者であるニートには、まだ救いがあるわけである。彼らが三次元でなく二次元の女子中学生、小学生、獣人、アンドロイドの、天然主義的行動を写生すれば、そこには価値が生まれるはずだ。

綿矢りさがすごいのは、そのような同人目線で見れば発見できる同人的価値を、三次元女子中学生が書くという行為で発生する類のブンガク的価値でなく「真の文学的価値」に転化しているところだ。「真の文学的価値」とは、その作品の読者のみが感じるもので、それ以上に広げて表現することは出来ない。ブンガク的価値を含むあらゆる市場価値と正対するものであると言えなくもない。価値、という単語を分解すれば「価・値」であるから、ただそれを「文学性」と言い換えた方がいいのかもしれない。

「これを17歳で書いたからすごいのではない」と文庫解説で源ちゃんが言っていた以上の、価値の発生を想定したことを言うとすれば、以上のようになる。

ところで僕は今こうして書いていて、これを日記ではなく小説として認定しようと決めた。それはなんのためかというと、「真の文学的価値」こと「文学性」のでっち上げのためだ。

テレビで例の、女子高生が同級生に惨殺された事件がトップニュースとして流れ始めたが、この流れでこの事件についてコメントすることは避けたい。元祖キモメン文学『変目傳』の主人公・傳助のものと同じ悲哀を見、容疑者に同情に似たものも感じれば、結構な美少女である被害者の、二次元に転化し得る余白を思うと、容疑者に対する人並みの怒りも感じる。ワカモノテキハンコウに対する諦観もある。

相生市アスファルトを突き破ってすくすく育っていた大根が、何者かによって切り取られてしまったというニュースが終わり、バラエティ番組の番宣、局自体のイメージアイキャッチ、新プリウストイレマジックリンパワーリキッド、進研ゼミ小学講座、コンタックデイアンドナイト、らくらく家財宅急便、養命酒自動車保険ワンドゥーのCMを経て紀宮様ご成婚関連のニュースが始まった。

もう17時16分。これから銭湯に行って、19時の電車に乗らなければならない。アナログの時計は部屋にないが、聞き覚えのある音が聞こえてきそうだ。

カチ、カチ、カチ、カチ……