混血兄弟

平日朝。某私鉄。下り、急行。座れるか座れないかの混み具合。私は後ろから三両目でドアにもたれ、本を読んでいた。私の目的の駅までに一度しか停車しない、その停車駅で、黒のランドセルを背負った少年が二人、乗り込んできた。兄弟らしい少年たちは、どころどころ金色の混じったストレートヘアを揺らし、大きな黒い瞳を輝かせ、おそらくそのような境遇にある他の兄弟同様、自分たちで纏った草むらを探検していた。私はアゴタ・クリストフの『悪童日記』を思い出す。セシールか何かのカタログに載っている、少年用ブリーフのモデル。ラファエロの描く天使。半ズボンから伸びた褐色の脚に、老若男女問わず、乗客は見とれていたと思う。私もそうだった。

彼らは誰かを捜していた。それは「母親」の代わりだろうと、『悪童日記』から離れられない私は想像する。我々の乗っている後ろの車両を覗いて、「いない、やっぱ一番後ろだ」とネイティブな日本語でささやき合う。この時間、一番後ろといえば、女性専用車両だ。そこに、彼らの探す「誰か」がいる。あるいは彼らを戦慄させる「魔女」かもしれないと、まだ『悪童日記』から抜け出せない私は思いつく。

次の駅に到着する。腹筋を使ってもたれかかっていたドアが開くと同時に立ち直り、きびすを返して車両を降りる。と、後ろから少年たちが飛び出してきた。私の尻を弟のランドセルがかすめ、左向け左の格好にさせられる。彼らは嬌声をあげながら、最後尾の車両へ向かって翔ていく。私は乗り換えのため前に向き直り、出口へ歩を進める。まもなく発車時刻になり、最後尾の女性専用車両が私を追い抜くが、彼らの姿は確認できなかった。

そういうわけでこの美しき混血兄弟の冒険、結末を知ることはできなかったが、ただ一つ、確かに言えることがある。それは、十数年後、彼らが「いいとも青年隊」の一員になるということである。